令和5年度奈良女子大学大学院入学宣誓式 学長式辞
昨年令和4年度は大学の制度として大きな変化がありました。奈良女子大学と奈良教育大学とが法人統合して、国立大学法人奈良国立大学機構ができました。この一つの法人のもとに二つの大学がある形になりました。時代の変化が緩やかな時代には研究を深めることが重要になります。一方で変化が激しい時代には研究の幅を広げることが肝心になります。その意味で今は大学間の横連携が必要な時代なのです。
さて、学士課程の4年間は「自立への過程」ですので、様々な迷い道にトラップされます。プライドとの格闘で、自分のプライドとうまく付き合う術を手に入れるまで時間がかかることがあります。博士前期課程、博士後期課程と進むにつれ、霧が晴れるように自分の進む道が見えることがあります。そのようなときは、何か成功体験があって、自信が出来た時です。
大学院博士前期課程に入学された皆さんは、高校までの文系と理系という分類が研究の分野では通用しないことをご存知と思います。あえて文系と理系という言葉を使いますがご理解頂けると思います。理系の学問は積み上げ方式です。それは研究対象が物質である場合、とても効果的です。世界中に同じことを研究している仲間がいます。物質は、時間と空間移動で不変です。一方、文系の学問は、個別的で説得的です。人類が持つ最高のコミュニケーションツールである言語を用い、発信します。このパワーは強烈で、一本の論文で世界を変えることができます。
生活環境系の学問は、ユニークです。理系の学問が共通の中に見る普遍性の追究、文系の学問が個別に中に見る普遍性の追究であることと比較して特異なイメージがあります。生活環境学は、人の生活に役立つものに興味の焦点がありますので、生産者よりも使用者の視点を重く見ます。学問的にはユニークですが、今の時代には面白いと注目を浴びています。
博士後期課程にご入学の皆さん、あなた方はすでに研究者で、専門家の入り口にいます。皆さんは既に人生で幾つかの重要なチョイスをして来られたと思います。 幸福を得るチャンスは人によらず平等に訪れます。一方、「チャンスは準備をした者を好む」と言われます。この言葉は、フランスの細菌学者パスツールの Chans favors the prepared mind. という発言から来ているのですが、パスツールが紹介したのは自分の発見のことではなく、デンマークの物理学者エルステッドが電磁気作用を発見したことを述べたときでした。異分野であっても学者が学者を知るという素晴らしい話でもあります。
研究に行き詰る。ネガティブな結果しか出ない。苦しいものです。しかし、苦闘している者にチャンスは訪れ、それを得ることができます。研究を続けていると、創造の喜び、発見の喜び、何物にも代えがたい歓喜が時に舞い降りるものです。皆さんの1人でも多くが、この研究の喜びを味わってくれることを願っています。昨年から博士後期課程の皆さんは、フェローシップ制度等の生活?研究支援制度の活用が可能になりました。この意味は博士後期課程の学生はすでに研究者として扱うという意味です。是非積極的な活用をお薦めします。
皆さんがこれから学ばれる奈良の地は古代を現在まで伝えているスケールの大きな場所です。本学の北徒歩5分の場所に、聖武天皇の御陵と光明皇后の御陵が並んであります。聖武天皇の願いは「人々も、動物も、草木も栄える世の中を作りたい」ということでした。その願いが東大寺を作り、1272回絶えることなく続いてきた「お水取り」として継続しています。光明皇后は聖武天皇がお亡くなりになったとき、悲しみのあまり、聖武天皇のお使いになっていた品々を正倉院に収められました。この、人を思う気持ちが、戦後毎年30万人の人々を集める「正倉院展」として続いています。
最後になります。この奈良の地で、切磋琢磨され、知能?品格ともすばらしいリーダーに成長されることを祈念してお祝いの言葉といたします。
令和5年4月4日
奈良女子大学長 今岡春樹