「リクルートスーツにエール!」

 (この文章は奈良女子大学「学園だより(1998年)」に掲載した文章を一部改変したものです)

 毎年今頃になると、黒っぽいリクルートスーツ姿が目につきます。聞くところによると、今年の女子大学生の就職はまたもや悪いとか。この不景気な時代、真っ先に切り捨てられるのは女子大生なのでしょうか?。ある企業の方からこんな話も聞きました。「この時代、賢い女の子はいらない」のだそうです。フン!!有能な女性を女の子呼ばわりして活用しない企業なんて、お先真っ暗よ!!

 私は生活環境学部で生活健康講座に所属し、健康に生活できる住環境に関して研究しています。この生活環境学部(旧家政学部も含めて)の卒業生で製造関連の企業(メーカーと呼ばれるような会社)に就職した人の中には「生活関連分野の研究・開発」を担当する人が比較的多いようです。一般の生活場面で使用する製品の研究・企画・開発です。生活者のニーズを探り、ニーズに合致した製品の企画開発し、製品が生活場面で意図どおりの機能をするか検討し、その宣伝販売戦略を立案するというような仕事でしょうか。「生活研究」と呼ばれることもあります。健康で豊かな生活のために、急速に進歩する科学技術をどのように使用し、どのようなものとして商品化するか考え提案していく、私達にとても身近で、おもしろい分野でもあります。生活を切り口にする生活環境学部が企業と接点を持つ重要な分野であり、他学部では学ばない、私たちがアピールできるところでもあると思います。

 また、複雑に入り組んだ現代社会では、企業だけでなく行政や教育現場でもこの分野の知識のある人材が不可欠だと思います。「生活関連分野」は私たち生活環境学部で勉強したものが活躍出来る場です。学生さん達の中にも興味を持ち、こんな仕事がしたいと意欲のある人も居ると思います。

 ところが、この「生活関連分野」は不況になると真っ先に縮小される分野のようで、求人がほとんどなくなってしまいます。不況になったからと言って「私たちの生活」はなくならないのにです。企業にとっても、製品が商品として洗練されていくために必要なステップであるはずなのにです。先ずはハード開発と言うことでしょうか。それとも「生活関連分野」なんか誰にでもできると思われているのでしょうか。

 それでも、私は私達全員が生活者である限り不可欠な分野であり、複雑に入り組んだ現代社会では生活関連分野のスペシャリストが必要だと力説します。人口の半分以上が女性である限り「女性の目」が半分は必要で、しかも、現状では女性だということを大きな「売り」にもできる分野の1つだとハッパをかけ続けます。ぜひ、身につけた知識や技術を生かして欲しいのです。折角苦労して入学して勉強しているのに、それを生かさない手はないと思うのです。

 もちろん生かす方法は様々ですし、いろいろな活躍をされている諸先輩はいらっしゃいます。私達教官の考えの及ばなかったような新たな方向も開拓して欲しいとも思います。

 就職戦線を突破し、それなりの覚悟で働いていても、「仕事か家庭か」と迫られ、仕事を諦めざるを得ない状況に追い込まれることもあります。本学は女高師の伝統で教員が多いとはいえ、まさに「仕事も家庭も」としなやかにこなしていらっしゃる諸先輩達も多いように思いますが、最近立て続けに、音が聞こえそうな程「ばりばり」と働いていた卒業生の退職の報に接しました。もっともやめそうにないと安心していた、卒業生たちです。それぞれの事情があって、続けられなかったのでしょう。本人たちも不本意であったのではないかと思います。「だから女の子は...」と言う声も聞こえてきました。残念ながら女性であることが不利になることもまだまだ多く、公務員や教員は比較的残留率が高い方ですが、企業では男女雇用機会均等法世代と言われても、「寿退職」が横行しています。まだ、女性が職場で活躍し続けていられることが、「ラッキーな環境にいる」と表現される時代です。

 でもやめざるを得なくなれば、その時はその時で、また新たな自分の生かし方を考えることにして、今は「やる」覚悟で就職活動に立ち向かって欲しいと思います。これからは、女性も男性も「仕事も家庭も」という時代ですから。

 私が奈良女に入学した当時、友達に、奈良女の伝統の校風は「質実剛健」だと聞き、「それって男子校に使う言葉じゃないの!」とびっくりしたことを思い出します。しかし、最近ぴったりかもしれないと思い初めました。地味に見えて、しなやかで、いざとなると底力を発揮するというようなイメージです。「磨けば輝く」でしょうか。先生方も決して「女の子だからこれくらいで」ではなく、「あなた達にもできる」「この先にも進みなさい」と鍛えてこられたと思います。そして、生き生きと活躍している諸先輩方を仰ぎ見て下さい。きっと勇気がわいてきますよ。

 少しでも力になれたらと思いつつ、リクルートスーツの後ろ姿につぶやきます。「ファイト!!」

もどる