レスリングや柔道などの体重階級制競技アスリートの多くは、試合前の計量に向けた極度の食事や飲水制限などにより、7日以内に体重の5%以上の体重を減らす“急速減量”を男女ともに習慣的に行っている。これまでヒトを対象とした研究により、急速減量が骨格筋量や内分泌応答に及ぼす影響について報告されているが、各臓器におけるタンパク質代謝の挙動については十分に明らかにされていない。さらにほとんどが男性アスリートや雄の実験動物を対象とした研究であり、女性アスリートを対象とした研究が行われていないのが現状であ る。そのため、雌ラットを用いた動物実験により、女性アスリートの急速減量が骨格筋におけるタンパク質代謝応答に及ぼす分子メカニズムを明らかにしていく。
昨今わが国では女性の社会進出が著しいことに加え、そのライフプランは多様化している。 それはスポーツ界においても顕著であり、多くの女性アスリートがオリンピック・パラリン ピック競技会など世界を舞台にして輝かしい成績を収めている。特にわが国の女性アスリー トがメダルを多数獲得している競技として体重階級制競技が注目されている。一方で、体重 階級制競技はその競技特性から身体に多大な負荷がかかることが特徴である。人生100年と もいわれるこの社会で健康寿命の延伸が関心を寄せられる中、アスリートにも競技生活の倍 以上の期間が競技引退後の人生として待っている。したがって、競技目標の達成だけでなく 競技現役中から引退後の健康な人生までを視野にいれた取り組みが求められている。そのた めにはアスリート自身が身体への負荷リスクを納得して競技生活を過ごせるような健康管理 に関する知識の集積が欠かせない。