化学領域

酸素を用いた末端アルケンの触媒的な酸化によるアルデヒド合成

浦 康之(うら やすゆき)

研究概要

逆マルコフニコフ型ワッカー型酸化とよばれる、パラジウム/銅/マレイミド触媒系を用いた、芳香族アルケン(ベンゼンなどの芳香環を置換基にもつアルケン)からのアルデヒド合成反応を開発しました(図)。酸化剤として、安全で安価な常圧の酸素を用いることができ、常温に近い穏やかな温度(40℃)で反応が進行します。現在は、工業的により重要な、脂肪族アルケン(アルキル基を置換基にもつアルケン)からのアルデヒド合成反応の開発にも取り組んでいます。

アピールポイント

アルデヒドは溶剤、プラスチックの可塑剤(プラスチックに柔軟性を与えて加工しやすくするための添加剤)、洗剤などの原料となる重要な有機分子です。現在の工業的なアルデヒドの製造には、末端アルケンを原料として、コバルトまたはロジウム触媒の存在下、高圧の合成ガス(一酸化炭素と水素の混合ガス、10〜250気圧)を高温条件下(100〜175℃)で反応させるヒドロホルミル化とよばれる方法が用いられています(図)。一方、私達が開発した逆マルコフニコフ型ワッカー型酸化では、パラジウム/銅/電子不足な環状アルケン(マレイミドなど)を組み合わせた触媒系を用いることによって、常圧の酸素および穏和な条件下(40℃)で芳香族アルケンからアルデヒドを得ることができます。ヒドロホルミル化に比べて、炭素鎖が一つ短いアルデヒドが生成します。この反応では、高圧の合成ガス(合成ガス中の一酸化炭素は毒性が高く、水素は非常に爆発しやすい)や高温の条件を用いる必要がありません。触媒活性のさらなる向上や、原料の適用範囲を広げていくこと(芳香族アルケンだけでなく、工業的により重要な脂肪族アルケンを原料として利用できるようにする)など、乗り越えるべき今後の課題はまだまだ多いですが、新たに見出した反応は、従来のヒドロホルミル化よりも安全で環境低負荷なアルデヒド合成法となるポテンシャルを秘めています。

掲載日:2021/03/31 更新日:2021/03/31