人文社会学領域

ソーシャル・ネットワーク分析による移住者定着メカニズムと移住政策効果検証

水垣 源太郎(みずがき げんたろう)

研究概要

2019年度奈良女子大学・奈良県共同研究「奈良県南部におけるコミュニティ開発の拠点形成と人材蓄積過程」では、奈良県南部振興計画の一環として設置された移住促進施設の機能評価を行いました。
まず、本施設の訪問者・イベント記録に基づいてネットワーク・データを再現し、それらのレイヤー構造や時系列的変化を分析することにより、移住促進施設がもたらす定住人口・関係人口・交流人口の創出効果、移住者へのファシリテータ効果や施設運営者の活動の展開過程を評価しました。
その結果、施設への実訪問者は奈良県外の出身者が大半を占めており、施設は関係人口・交流人口の創出に重要な役割を果たしていることがわかりました。また施設運営者をめぐるソーシャル・ネットワークの重層性が移住者の定着に貢献していることも計量的に明らかになりました。さらに施設は訪問者の増加とともに「移住促進機能」から「移住定着機能」へと機能を変化させており、この施設のフェーズの変化を発見するための「拠点機能指数」を開発しました。

アピールポイント

定住人口のみならず関係人口や交流人口まで含めたソーシャル・ネットワーク分析を行うことにより、それぞれの役割と移住者の定着メカニズムを計量的に解明し、移住政策の評価を行った点が本研究の特徴です。
本研究で開発した手法は、移住政策を担う関係者が自ら実施することにより、現在までの効果検証や、今後の展開に必要なサポートの種類およびその投入タイミングの特定に役立ちます。
本研究では、上記のソーシャル・ネットワーク分析に加えて、地域在住の満15歳以上の男女を対象とした、当地の生活状況や移住に関する質問票調査を実施するとともに、公的統計による広域的な社会経済的地位評価を行いました。こうした多元的な分析手法は、単一ケースのソーシャル・ネットワーク分析の結果を一般的に展開するのに役立つと考えられます。

図1 移住促進施設をめぐるソーシャル・ネットワーク
図2 移住促進施設の拠点機能の推移
掲載日:2023/02/25 更新日:2023/02/25